<はじめに>
浄土真宗本願寺派の得度習礼は年間8回、毎年約800人以上の方が得度し僧侶の卵として誕生しています。
月によっては中学・高校生対象(7月)、仏教学院生対象(9月)、50才以上対象(11月)などもあります。
65才未満の人なら誰でも対象という幅広い層の参加者がいた10月参加の私の体験が、全ての方々に当てはまるとはかぎりませんが、これから得度をしようと考えている方や、お寺に興味すらない方(笑)にもわかりやすく、体験記を書いてみようと思います。
※幅広い層の方々にわかりやすくするため、極力専門用語はさけ、また想像しやすい言葉に置き換えて表現している箇所があることをご了承ください。
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長い?短い?得度習礼期間は11日間。
何かを習得するのに、11日間というのは短いでしょうか?
例えば、医者、陶芸家、弁護士、保育士、調理師、ピアニスト…どの分野で活躍するにも長い年月をかけた勉強の時間が必要不可欠です。
11日間研修を受ければ僧侶になれるから、得度を受けるという発想で望むと泣きを見ます。
言ってみれば得度習礼(研修)は、初級レベル最終チェック期間です。
参加申し込み時にいただく要項にははっきりと、事前に習得しておかねばならない項目があげられています。事前に自分で勉強し、推薦人である寺の人に指導を受け、基礎は完全にマスターして参加するのが、得度習礼なのです。
どの程度マスターして参加するかによって、楽しい思い出となるか?苦しい思い出となるかがわかれます。
「完全に暗唱できること!」と指定されたお経や文章は、完全に覚えていった方がいいです。
私は「領解文」が暗記出来てなくて、ちょっと泣きました。
作法や所作は、その場で覚えることもできますが、文章の暗記を短期間でするのはむずかしく、焦りまくりました。「領解文」「僧侶の心得」「生活信条」は要暗記です!
「正信偈」も研修後半日からは「無本(むほん)」といって本を見ないでとなえなければならず、できるだけ耳で覚えておくことをおすすめします!
お経の練習では、エレクトーンを指導員の方がひきながら正しい音階で読む練習があります。「ハ調のミ」と言われて、その音が出せるといいですね。
11日間は長いか?
朝5時30分から掃除、お経、朝食をとってすぐ講義(実技指導の日もあり)、昼食をはさんでまた講義(実技指導の日もあり)、夕方のお経を終えて早めの夕食。その後も課題テストを自分のペースで受け、さらに寝る前のお経。次の日のお経の特訓を受け、あわてて風呂(洗濯が出来る日も数日有り)のち消灯11時。不安や緊張、極度の疲労でなかなか寝付けず、朝方寝付くが疲れは取れず。
この生活リズムの繰り返しは、便秘、寝不足、正座での足の痛みが日に日に増し、疲労は2〜4日目がピーク!5日目をこえると、いくつかの課題でやり終えた達成感と安堵感が手伝い、和気あいあい仲間同士のおしゃべりも楽しくなり、はげましあって乗り切れるから不思議である。 家族に会いたい思いに(メールも電話もできない)泣きながらも、長いようで、短かった…かな?
◎ パンツも白のみ!ノーブラ生活
得度持参品の項目で、「下着類は白色の物」という明記があります。
実は、得度経験者の方に「派手じゃなく、透けなければベージュの下着でいいんですよね〜。」などと聞くと「良いと思うよ。」などと答えてくださっていたので、私はベージュの下着を持参していった。すると、はじめのオリエンテーションの時に、「下着は白以外だめです!身も心も真っ白になっていどむという意味ですから、透けるとか派手じゃないからという理由も通りません。用意してない方は、事務所で購入してください。」との諸注意を聞いてガ〜ん!結局予算の都合もあり、白デカパンツ3枚、白ランニングシャツ(男性用?)2枚を購入。途中雨でデカパンツが乾かず追加1枚購入(笑)ブラジャーは予算にあわず、断念ノーブラ生活をおくりました。
未婚で恥じらいの年頃のかた、胸が豊かな方にはむいていませんので、事前に白いブラジャー(スポーツ用がベストなようです。)を用意されることをおすすめします!!
また最終日、極度の脱力感からか?不正出血をした私は、布ナプキンをあてていて助かりました。おりもの、失禁の心配な方にも、パンツの枚数が心配な方にも、布ナプキンはおすすめです!
◎ 腹から声を出すと汗がダクダク
おかげさまで11日間に、4キロ痩せました。いってみればただ座ってお経を読んでいただけなのに!
「大きな声で!」「息継ぎをしないでここまで声をのば〜す」という指導の通り、大きな声を出すには、正座の姿勢ですからノドからだけではすぐに枯れてしまいます。いつの間にか腹から声を出していたので、5分も読めば汗が出てきて、30分以上あるお経を読み終えた頃には汗だくです。10月だから暑くないと思いきや、熱かった〜。
指導員の方々の美声(オペラ歌手のよう)にあこがれて、がんばりすぎてしまいました。
◎ トイレに始まりトイレに終わる
集団行動、分刻みの研修プログラムの中で、一番の心配は「排便」でしょう。
緊張して出ない、焦ってでない、時間がなくってだせない、でも限界はくる!
もし、みんなが正座してし〜んと静まりかえっている時に我慢できなくもよおしてしまったら!?
勇気を出して「先生トイレに行っても良いですか!」と叫ぶ覚悟をしよう!
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実技課題テスト
浄土真宗本願寺派の日々のお経は、蓮如上人のころより「正信偈&和讃」なのだそうです。
ご門徒さんと一緒に読めるように、難しい読み方の決まりをはずしたお経です。和讃部分からは、とてもメロディアスで歌うように唱えます。
ですから、音符の通りに読まなければなりません。この実技テストは、簡単なようで厳しいのですが、出来るまで徹底指導が受けられるので、ラッキーです。長い時間かけて個人レッスンを受けた者はみな喜んでいました。
また、黒衣のたたみ方、袈裟の結び方などの実技も毎日繰り返す中、自然にマスターできました。
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筆記理解度調査テスト
基礎の基礎、これ知らなかったら恥ずかしいよ!という問題なんでしょうが…、恥ずかしながら悪戦苦闘しました。
まず、坊さん以前に、社会人として知っていないといけない常識「漢字」が書けなくてお恥ずかしい。
「龍の字、最後3本線引くんですよ!」あちゃ〜、2本線書いてました。
「衆の字、下半分適当ではいけませんよ!」適当に書いてました。
蝋燭(ろうそく)とか、蹲踞(そんこ)とか難しい漢字覚える前に、一字一句丁寧に書く事を教わりました。
教区によっては、先輩方から例年試験予測問題集なるものが作成され、代々受け継がれているようです。
自分の苦労を後輩にさせたくないという優しさの伝達ですね。ステキ。
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現場体験!内陣出勤
得度習礼(研修)で、一番うれしかったのは、儀式などの時に内陣(本堂奥、阿弥陀さまの浄土を表現した1段高い空間)にあがり、お経を読む体験が出来たことです。
たとえ僧侶になったとしても、まだまだ新人が内陣で、先輩僧侶の方々と並んでお勤めをさせていただけるチャンスなんてありません。導師や調声人(その場のリーダーとして音を決める重要なポジション)などを体験できる新人は数少ないでしょう。だからこそ、西山別院の由緒正しき本堂で内陣出勤できた経験は、感極まって泣いてしまうくらいじ〜んときました。
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あってよかった持ち物
★ 鼻緒形スリッパ(私も先輩から教わって持参しました!サンダルでOK!足袋をはいているので、階段の上り下り時など、スリッパは脱げやすくイライラします。笑)
★ 医薬品トローチ(飴に該当されると没収されてしまうので注意!声がかれる〜)
★
シップ(正座による足の痛み、肩こり、腰痛にひっぱりだこ。)
★ 枕カバー(布団をたたみ、ひく際に、自分の枕がわかると気持ちいいよね。タオルでくるんで目印にするもよし。)
★ 裁縫セット(いろんな所に袖をひっかけて破く事件多発!)
★ 洗濯ネット(洗濯物を友だちとまとめて洗濯機に入れる場合、自分の物が迷子にならず便利。)
★ 布ナプキン(はんかちサイズの物を、折り面を変えて使用すれば、おりものシート、ナプキンの役目もばっちり。)
★ 手作り名刺(仲良くなった人に渡そう!)
★ 小銭(忘れ物代、必要品代、診療・薬代などが必要になる場合があるので8000円は金庫に入れておきたい!)
★ 大きめの風呂敷(黒依、賞状を入れる筒、分厚い書籍などをくるみ本山までバスで移動する際必要!大きめ!)
★ 手提げカバン(教室移動の時に教科書などを入れて移動するのに便利。)
★ 白い下着(ダサイ下着を事務所で買うより、気に入った物を事前に買って持って行こう!)
◎ 剃髪の意義、あらゆる飾りをそぎとった自分
今回女性で剃髪をうけたのは私だけでしたが、毎回1人くらいはいるのだそうです。男性は全員強制です。
はずかしい、すごくイヤ、いろんな方がいるかと思いますが、「法名をいただき、生まれ変わる覚悟で、何もかも捨てて(家族を捨てろと言われないだけありがたい)、最初の第一歩を踏み出すのならば、毛など、あってもなくても関係ないのでは?と思います。
心の迷いを削ぎ落とすかのように心の剃髪をしていただき、公私共に僧侶としての生き方をします!と宣言をする姿を町行く人にも見ていただこうと思います。」
みんなと違った外見の者をみると、バカにしたり笑ったりする傾向が世の中にはあります。
こどもたちも、あからさまに「ハゲになった〜!」と指さし笑ったりします。
でも、私は凛として「お坊さんになったんよ〜!」と笑顔で胸をはります。
外見にこだわり、世間の目が気になってしかたがないあなた!
「そのまんまでいいよね〜同盟」を組んで元気にいきましょう!
◎ スペシャリスト指導陣
なんと言っても感激したのは、得度習礼(研修)の講師陣がスペシャルだったこと!寝不足で、講義中に寝るなんてもったいない!
また、指導員の方々も、お経を正確に美しい声で読むレベルの高〜い実力者ぞろいで、レッスンを受けることが出来感激でした!
その実力も並々ならぬ努力と回数をこなされて培われたものであり、とうてい追いつけるレベルではありませんが、目指して頑張ることを約束します。
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いくらかかった?
さて、現実的な話。得度を受けるにはまず、願書提出時に50,000円、その半額を地元の教務所へ納めます。改名したい人は12.000円追加。地元の研修を通ると、得度習礼費用127,800円振り込みます。
11日間の食費、宿泊費、講師謝礼、レッスン代、大浴場などの光熱費、バス代、だと換算すれば、格安ではないでしょうか?
持ち物の準備(黒依など自分用に新品を調達する必要アリの場合数万円、足袋1足2500円×4足これだけですごい出費。この期間しか使わない物・俗袴などレンタル4,000円など。)京都桂駅までの往復交通費!などなど。
これを誰が出しているのか?自分で工面した、という人はえらい!
家族、応援してくれる知人が工面してくださったという方、みんなの気持ちに感謝だよね〜!(私もこのパターン)
寺の経費という方、ご門徒の方々に報告とお礼を忘れずに伝えたいよね〜!
さあ?誰のお金で払ったか知らないという方!調べてお礼を言おう!!
こんな大金を払えるあてがあって初めて私たちは得度習礼を受けることが出来たのです!
まだ、寺を継ぐかどうか迷っているとか、僧侶として生きていくかわからない…なんて言ってる人は、全額返して、寺から離れるべきです!!
こんなにも大きなご恩の中にいても感謝出来ない人間は、もう一度俗にもどってください。そして寺の門をくぐりなおして一から出直してください。
何年かかっても、何度出直してもいいから、感謝出来るようになったら、はじめて僧侶として衣を着て生きてください(…と私は思います)。
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真っ暗な得度式
剃髪式を受け、身も心も僧侶として生まれ変わる準備が整うと、10日目夕刻に「得度式」が行われます。
西山別院からバスで本願寺「総御堂」に移動、白依に俗袴という姿(まだ正式には僧侶じゃないから)で式を受けます。
親鸞さまが9才で得度したのが、夕刻であった事を再現するいみで、真っ暗な「総御堂」に蝋燭(ろうそく)の灯りのみをたよりに、とりおこなわれます。
気配をたよりに一斉に頭を垂れると、ご門主さまから配られた「塗香(良い香りの粉香)」が左手のうえに配られ、自分で両手に広げ胸から腹に向かって塗ります。崇高な香りと、厳粛な空間のなかで、ゆっくりと一人ずつご門主によって剃刀が当てられてゆきます。付き添いの方々の機敏な動きの気配だけが、移動していく中で、生まれ変わりの儀式は流れてゆきました。
感動覚めやらぬ中、晴れて僧侶として生まれさせていただいたので、黒依・黄袈裟姿に着替えます。
ふたたび真っ暗な「総御堂」にもどり、「領解出言」(阿弥陀如来の本願をありがたく信じ、親鸞様や多くの方々のおかげに感謝して、この掟を一生守り生きることを誓う文を、低頭の姿で声に出して誓うこと)をしました。
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最終日、早朝からGO!
4時40分には起床!黒依黄袈裟すがたでバスに乗り、本願寺へ!
6時からの晨朝参拝に参加、この日はちょうど親鸞さんの月命日にあたっていたので、続いて宗祖月忌法要に参加。
この間1〜2分立ち上がって移動し、ふたたび正座の姿勢へ。11日間の修行の甲斐あって、約1時間30分に及ぶ正座にたえる根性が産まれました〜!この後も、大谷本廟に正座してお経。この頃には観光客と化して大いに楽しむことができました。
バスで再び西山別院にもどり、お世話になった部屋を大掃除。
解散式では、「蛍の光」の替え歌(笑)を熱唱。涙涙で、「みなさん、ありがとう!」を言いっぱなしの式でした。
さて、無事に家族の待つ家へ帰ってきました。わが寺、覚成寺の阿弥陀様に、まずはご挨拶。
ここからが本当の意味で僧侶生活本番です。住職やお母様に付いてご門徒さんのお宅を廻りながら、少しずつ僧侶らしく成長できたらいいなと思っております。
みなさまに見守られ、チャンスをいただき、教えられ、励まされ生きて行けたら幸いです。合掌
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