イラク報道〜テレビでは見えない戦場の報道〜
※今回は、副住職の義母からの投稿作品です。
 石の上に置かれた赤ん坊の死体に、瓶の水を掛けて洗うシーンが4月29日、午後5時45分からのテレビニュース「イラク報告」で放映されました。ただしこれは岐阜テレビだったので観た人はそう多くなかったかも知れません。
 大垣市出身のフリーカメラマン・久保田弘信さん(36)が、戦火のイラクで取材してきた一部を映像を交えて報告したものでした。
 赤ん坊の側で父親が拳を振り上げ空に向って何度も叫ぶシーンが続きました。

 岐阜県安八郡の覚成寺(娘の嫁ぎ先)の庫裏で、私は孫を膝に乗せてこのニュースを観る為にテレビの前に坐っていました。そこへ思いもかけず当の久保田さんが駈け込んできて、一緒にテレビの前に陣取ったのです。
 岐阜テレビで録画撮りを終えたその足で駆けつけてきたのでした。実はこのあとすぐ、彼の講演会「イラク報告会」がこの覚成寺で予定されていたからです。

 テレビ局で収録された自分のイラク報告がニュースでどんな風に放映されるか、彼は喰い入るように観ていました。そして冒頭のシーンが放映された瞬間、彼は「ヤッター!」と叫び「岐阜テレビはすごい!」「良心の勝利だ!」と言いました。

 彼の説明によると、このシーンを放映するかどうかを巡って、テレビ局のスタッフの中でかなり揉めたのだそうです。ショッキングな生々しいシーンであることなど。
 彼の強い希望が採り入れられたかどうかは不明ながら、テレビ局として大英断だったことだけは間違いないようでした。
 「でも…」と久保田さんは言いました。「現地で目にする悲惨はこの何百倍ものものです。テレビのチャンネルは切ることが出来るけど、戦場での悲惨が消えるわけではない」と。

 12年前湾岸戦争で使われた劣化ウラン弾は、イラクの子ども達に白血病と小児ガンを多発させ、母親からは今も異常児の出産を続発させていると言います。冒頭の赤ん坊は、被曝した母親から生まれた赤ん坊でした。
 
 今回のイラク戦争でもまた劣化ウラン弾は大量に使われました。

 劣化ウランとは核兵器開発や核燃料の生産過程で出来る核のゴミなのだそうです。その危険な放射性廃棄物の保管には莫大な費用がかかる為、始末に困った先進国が兵器として消費することを思いついたのだそうです。
 劣化ウラン弾は重くて固く、戦車を貫通する時はその摩擦熱で一気に燃焼し、その時放出される放射性ウランは微粒子となって40キロ先までも運ばれていくといいます。湾岸戦争の時とは異なり、今回は市街地が戦場となりました。砂嵐に混じって飛散した放射性ウランを、兵士も市民も等しく浴び、吸ったことでしょう。久保田さんも例外ではなく。

 イラクに滞在していた久保田さんの元へ、外務省から帰国を促す電話が連日入ったそうです。アメリカの戦争を支持した日本としては「日本人ジャーナリストの戦場での死」は戦争に反対する大半の世論を刺激しかねない為、何とか避けたい思惑もあったのでしょう。

 戦争の終わった市街地のあちこちに放置されたままの戦車や、爆弾の破片には今も強い放射能が残っており、そばで子ども達が無心に遊んでいると言います。治安も一層悪くなったイラクへ、久保田さんは再び出掛けていきました。「こわい…でも誰かが行かなくてはいけないから…」と言いのこして。


 仲 泊 眞里子
BACK