無関心が戦争を生むのです
 衆議院議員総選挙が終わった翌日の11月10日、小泉首相は、イラクへの自衛隊派遣について「自公保三党は(派遣が)必要だと選挙前も選挙中も言ってきた。その勢力が安定多数を確保し、国民の支持を得ることができた」と述べたことが、11月11日付中日新聞一面に載っていました。
 
 
また、同じく11日付朝日新聞の一面には、自衛隊と文民のイラクへの派遣を14日にも閣議決定し(アメリカのラムズフェルド国防長官が来日する日です)、国会に提出した後に、12月中旬から順次派遣する方向で調整中(注1)との記事が載っていました。

 ん?

 選挙前はともかく、今回の選挙中にイラク問題って声高に叫ばれてました?選挙中に新聞の折り込み広告に入っていた、小泉首相のカッコイイ写真入りの自民党のチラシ『小泉改革宣言』を見ても、イラクの「イ」の字も出ていません。(宣言6の「国益のための外交」っていうのが、そうなのかしら?)

 大事な選挙なんですから、肝心なことはもっとハッキリ言ってもらわないと困ります。
 一体首相は、私たち国民を何だと思っているんでしょう?

 さらに、11日付朝日新聞は、
外務省がイラクに派遣した文民の方がイラクで死亡、または重度障害を負った場合の弔意・見舞金の最高限度額を9千万円に引き上げる方針を決定したことも伝えています。

 もし、イラクに派遣された自衛隊の方や文民の方が本当に亡くなられたりしたら、政府はその方々の御霊を靖国神社にまつって、さらに、日本国に対する”有事”が発生したと判断して『有事法制』を適用し、私たち国民に戦争協力をさせる…これでは、まるで”いつか来た道”です。

 でも、有事法制が成立した今は、そういうことが十分起こりうる状況なんです。

 イラクのお医者さんに以前聞いたお話では、イラクには先の湾岸戦争で米国などが使用した劣化ウラン弾の影響で、多くの子ども達が戦後12年経った今も、白血病や小児ガンになり、さらに、放射能を浴びた女性が先天性障害を持つ子どもを出産する確率がものすごく高くなっているということでした(注2)。
 また、白血病の子どもを一人、日本の最新医療技術で救おうとした場合にかかる費用は、およそ1千万円くらいだそうです(セイブ・イラクチルドレン名古屋の試算による)。
 
 危険な状況と分かり切っている場所に派遣して、「もし亡くなったら9千万円支払います。」なんてこと言ってる前に、
なんで今すぐ、本当に苦しんでいる子ども達に手をさしのべてあげられないのでしょう?
 そればかりか、そうして苦しんでいる子ども達に追い打ちをかけるように、先のイラク戦争で再び大量の劣化ウラン弾を使用したのがアメリカのブッシュ大統領で、そのブッシュ大統領を全面的に支持したのが私たちの代表なのです。

 おまけに、劣化ウラン弾の放射能の影響はアメリカ兵にも出ているというのに(米国政府は補償に莫大なお金がかかるので、因果関係を認めていません)、自衛隊の方や文民の方が半年間もイラクに滞在したとして、その後予想される人体への被害についてはまったく論じられていません。

 先日、イラク戦争時に、バグダッドからニュース23に何度もリポートを届けたフォトジャーナリストの久保田弘信さんとお話をする機会がありました。
 彼は、「今のイラクは、アフガニスタンほどには困ってはいない」と話してくれました。たしかに、枯れた大地が国土の大半を覆うアフガニスタンに比べ、石油資源が豊富にあるイラクに、戦争直後はともかくとして、今のような支援をいつまでも続けることに疑問を感じます。
 また、イラク国内で頻繁に起こっているテロのニュースを見ていても、イラクの人々が他国の軍隊に一刻も早く出て行ってほしいと願っていることは容易に想像ができます。
 
 そんなイラクに自衛隊(小泉首相は「自衛隊は軍隊」だと発言しています)を派遣したらどうなることか…。

 この上さらに、悲しみの連鎖を生むようなことだけは絶対にやめてほしいです。

 最後にもうひとつだけ。

 
私たち日本は先の大戦に敗れた時、「もう二度と同じ過ちはくり返さないために」と、平和憲法である第9条をつくりました。
 軍隊を持たない国コスタリカからも尊敬され、世界中を見回しても希に見る平和憲法の意味をもう一度思い起こし、「改憲」や「創憲」の名の下にそれを”改悪”させないよう、目を光らせましょう。


 私たちの無関心が、次の戦争を生むのです。

 副住職 大平一誠


(注1)
この原稿を書いている途中、テレビのニュースから「自衛隊派遣の閣議決定を延期」の

ニュースが飛び込んできました。また、ラムズフェルド国防長官が「イラクは依然、危険なところ」で、
「日本だけ(安全な地域で活動するという)特別扱いはしない」というコメントを発表したニュースも。

(注2)
劣化ウラン弾の人体におよぼす被害について、11月12日(水)発売の週刊少年マガジンに
『汚れた弾丸』というドキュメントコミックが載っています。
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